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浅田次郎先生『花笑鉄心』

作家の浅田次郎先生が書かれたエッセイ集『ま、いっか。』(集英社刊)を読みました。  「花の笑み、鉄の心」という項から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①花笑鉄心(かしょうてっしん)・・・花のほほえみ、鉄のこころ、と読もう。  (中略)  この言葉は私のオリジナルで、出典があるわけではない。  (中略)

②なかなか夢が実現できずに、とうとう笑顔が地顔になってしまった。  しかし、どのような経緯があれ、幸せを求めるうえにも苦悩から免れるためにも、笑顔は不可欠な要件である。  楽しければ笑い、苦しければもっと笑い、どちらでもなければ自然に笑っていればいい。  日がな花のように笑い続けて、しかも大地に鉄のごとき根が生えていれば、なおさらいい。

③小泉八雲の随筆に「日本人の微笑」という名品がある。  それによると、明治以前の日本人は外国人が奇異に感ずるくらい、みな微笑していたらしい。  

④八雲はその不思議なほほえみについて、こう解析する。

〈日本人ほど、幸福に生活していく〝こつ〟をこれほど深くわきまえている国民は、他の文明国には見られないのである。  人生のよろこびは、周囲の人たちの幸福にかかっているのであるから、つまるところ、無私と忍従をわれわれのうちにつちかうところにあるという真理を、日本人ほどひろく理解している民族はあるまい〉

⑤考えるまでもなく、今日の日本人には当てはまるまい。  しかし年齢よりもずっと古くさい日本人である私は、まさか無私や忍従をつちかった覚えはないけれど、ヘラヘラと笑い続けるうちに幸福になった。

⑥「花笑鉄心」の福音である。  寝顔まで笑っている私が真顔に戻るのは、こうして原稿を書いているときだけであろう。

⑦自分のために笑え。  人のために笑え。  そしていつも背筋を伸ばし、鉄の心を忘れるな。』

②と⑦は本の帯にも印刷されています。

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