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佐藤優さん『交渉術』

『交渉術』(佐藤優著 文藝春秋刊)から抜粋し、番号を付けて紹介します。  佐藤さんは元・外務省国際情報局主任分析官です。

『①交渉の目的は、交渉を行うことによって、こちら側の利益の極大化を図ることである。  従って、交渉を行うことで、こちら側の利益が損なわれることが明白である場合は、交渉を行ってはならない。

②テーブルにつく以前に、すでに交渉は始まっているのである。  一般には、交渉といえば、丁々発止と議論を展開し、相手を説得するというイメージがあるが、それは交渉の一部でしかない。  私の理解では、広義の交渉術には三つのカテゴリーがある。

③第一のカテゴリーは、「交渉をしないための交渉術」である。  交渉を行ってもこちら側が損をすることが明白な場合は、そもそも交渉の土俵に上がってはならない。  (中略)  アメリカやイギリスがアルカイダと交渉しない、ロシアがチェチェン分離派と交渉しないという交渉術をとっているのも、アルカイダやチェチェン分離派を犯罪者集団として一方的に処理できる枠組みが必要だからだ。  (中略)

④第二のカテゴリーは、「暴力で相手を押さえつける交渉術」である。  相手の言い分には耳を貸さず、一方的にこちらの要求をのませる。  (中略)  もっともそれは、次に述べる「取り引きによる交渉術」と併用されることが多い。  「力の論理」だけでは弊害が多いからだ。  (中略)  現在、このカテゴリーの交渉術をとっているのが北朝鮮だ。  弾道ミサイルと核兵器による恫喝で、自国の利益極大化を図っている。  (中略)  北朝鮮のような弱い国が、この交渉術をとっても、いずれ息切れする。  そのときにこれまで温和(おとな)しくしていた他国が北朝鮮を徹底的に叩き潰そうとする。  中長期的には得策ではない。  (中略)

⑤第三のカテゴリーは、「取り引きによる交渉術」だ。  これが狭義の交渉術にあたる。  交渉術で伝達される技法のほとんどがこのカテゴリーで使用されることが想定されている。  (中略)  集団と集団の力関係が対等か、優劣はあるが、その差があまりない場合には、一方の集団が他方の集団を征服することができない。  あるいは征服することができたとしても、こちら側の損害と損失が大きすぎる。  (中略)  ことばなどを使い、さまざまなメッセージを交換することで、衝突を回避するのである。  (中略)

⑥第三カテゴリーの「取り引きによる交渉術」の場合、交渉に絶対勝利することができる確実な技法を身につけるということは、そもそも不可能なのである。  交渉とは、関係者全員が俳優、演出家、シナリオライター、観客の役割をもち、その役割が頻繁に移動するという不思議な劇場なのである。』

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