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宮台真司先生『チェ・ゲバラ』

社会学者で首都大学教授の宮台真司先生が書かれた『日本の難点』(幻冬舎新書)から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①社会変革は必ず「割を食う(わりをくう・・・損をする)人々」を生みます。  一つは、社会体制の変革が必ず何らかの「再配分」を伴うから。  もう一つは、どんな変革も成功の保障はないので変革への協力が「賭け」の要素を伴うから。

②従って、経済学的な意味で合理的計算(=損得計算)を行なう人であればあるほど、変革への協力はありそうもなくなります。  この壁をどう乗り越えたらいいのでしょう。  ヒントはチェ・ゲバラことエルネスト・ゲバラです。  ゲバラは今さら言うまでもなく、フィデル・カストロと並ぶキューバ革命の最大の偶像(アイコン icon)です。  (中略)

③彼の魅力の本質は、伝記的資料や、それを再現したスティーブン・ソダーバーグ監督の二部作『チェ 28歳の革命』 『チェ 39歳 別れの手紙』を見ればよく分かります。  答えは、「合理性を超える力」。  もっと正確に言えば、「合理的な理由で逡巡(しゅんじゅん・・・決断をためらうこと)せざるを得ないという壁を、人に乗り越えさせる力」です。  (中略)

④ゲバラは、民衆や兵士の不満や逡巡の合理性を誰よりも知っています。  たとえば、宿や食事を提供するゲリラ協力者は、政府に発見され次第家族もろとも見せしめに虐殺(ぎゃくさつ)されます。  民衆はそうした見せしめをたくさん目撃して知っています。  普通のリーダーならば、そこで「革命の大義」を大演説するでしょう。

⑤ゲバラは違います。  革命の大義を陶酔(とうすい・・・うっとりとして、その境地にひたること)的に語るよりも、自身があえて「不合理性への跳躍」を体現するのです。  喘息(ぜんそく)持ちなのに体力の限界を超えて行軍した挙げ句、行く先々で医師として無償で民衆の病気を治します。  結果、合理性とは別の何か・・・感染的模倣(かんせんてきもほう)・・・によって周囲が包摂(ほうせつ・・・一つの事柄をより大きな範囲の事柄の中にとりこむこと)されるのです。

⑥年端(としは)もいかない少年までもが「このスゴイ人についていきたい」 「自分もこんなふうにスゴイ人になりたい」と感染していきます。  するとゲバラは、「ちゃんと勉強して字を学べ、さもないとゲリラとして役立たない」と思いとどまらせます。  すると少年や周囲はますますゲバラに感染していくのです。

⑦そう。  本当にスゴイ奴に利己的な輩(やから)はいない。  ゲバラが2年も経ずに司令官(コマンダンテ)に昇格したのも、ありそうもない利他(りた・・・自分を犠牲にしても他人の利益を図ること)性ゆえの感染力のなせる業(わざ)でしょう。』

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