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小川宏さん『入院』

アナウンサーの小川宏さんが書かれた『小川宏の心に残るいい話』(清流出版刊)から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①忘れもしない、平成4(1992)年3月16日(月)の早朝にふと目が覚(さ)めた。  1年ほど前から倦怠(けんたい)感、不眠症がつづいており、この日もやはりそうだった。  

②しばらく寝床でうつらうつらする間(うち)に、「今日、私は地球上から消えよう」と決心した。  家の者が寝静まっているのを確認し家を出た・・・数分歩いたところにある私鉄の線路の脇に立っていた(平成17年1月、厚生労働省の報告では自殺者が最も多いのは月曜日、男は早朝、女は正午ごろとのこと。  まさにあてはまる)。

③電車がくるのを待っていたのは午前6時頃。  早朝ゆえ本数は少ない。  通り過ぎる電車を何台か見送りながらいろいろ悩んだ。  もし失敗したら残された家族はどうして暮らしていくのか、世間の笑いものになるのではないか・・・。  

④そのうち心は平静になってきた。  300メートルほど先に電車が見えた。  ままよと右足を1歩前に出して準備態勢に入った。  

⑤そのとき、家族と親友の顔がオーバーラップして、映画の1シーンのように眼前に浮かんだ。  そしてパッと消えた。

⑥同時に「ワイドショー」時代によく出演してくださった名ジャーナリスト、山谷新平(やまたにしんぺい)さんが、自殺絡(がら)みの事件のときに必ず口にされた言葉が頭をよぎった。  「自殺は愚(おろ)か者の結論です」

⑦この相乗効果で私は思わず足を引いた。  電車は轟音(ごうおん)を響かせて通りすぎていった。

⑧この効果で今の私がある。  妻に手をひかれるようにして病院へ直行した。  重いうつ病で即刻入院。  (中略)

⑨入院して1ヵ月経ったころ、NHK時代の親友から病院宛てに見舞いの手紙をもらった。  「実は、君に隠していたわけではないが、数年前自分も、重いうつ病で入院したことがあった。  辛(つら)い」気持ちはよくわかる。  でもあと一息で、辛い+(プラス)一(いち)=(イコール)幸(さいわい)になるよ」

⑩この文字を見た瞬間私には〝処方箋(しょほうせん)にはない薬〟のような感じがした。  ありがたかった。』

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