PREV | PAGE-SELECT | NEXT

近藤勝重さん『マークのリスト』

毎日新聞・専門編集委員の近藤勝重さんが書かれた『早大院生と考えた文章がうまくなる13の秘訣』(幻冬舎)を読みました。  抜粋し、番号を付けて紹介します。

『①それでは授業をはじめます。  マークという少年のベトナム戦争悲話です。  アメリカでベストセラーになった『こころのチキンスープ』などで紹介され、全米では広く知られているようですよ。  これからその話の概略を説明します。  そのあとでみなさんに一つ質問します。

②米国ミネソタ州の私立中学部でのことです。  先生のヘレンは生徒に二枚の用紙を渡して一人ひとりの友だちの良いところを書かせました。  そして週末にそれらをまとめた一人ずつのリストを作り、月曜日にそれぞれの子に手渡すと、教室中に歓声と笑顔がひろがっていきました。

③でもそのことも遠い思い出のひとコマになっていたある日、ヘレンの元に教え子だったマーク少年の悲報が届きます。  ベトナム戦争で戦死したのです。

④ヘレンは葬儀に参列しました。  すると両親が「先生にぜひお見せしたいものがあります。」と紙片を取り出しました。  あの日のリストです。  両親はマークが戦場でも身につけていたと話しました。

⑤さて質問です。  あなた方がマーク少年のこの話を書くとき、ぼくがいましゃべったこと以外に先生、あるいは両親にぜひ聞いておきたいと思う点を書いて、五分後に提出してください。

⑥・・・答えはいろいろですね。  「マークの長所」 「ヘレンがなぜ長所を書かせたのか」 「先生や両親はベトナム戦争をどう思っていたか」

⑦みんなが挙げてくれた点はそれぞれ必要かもしれません。  しかし何よりも両親に尋ねてほしいのは、この一点です。  「マークが戦場でも肌身離さず持っていたリストはどんな状態だったのか。」

⑧いま「あっ」という声がもれましたね。  そうなんです。  リストの状態について先の話では一切ふれていません。  きれいな状態だったのか。  それともぼろぼろになっていたのか。  

⑨『こころのチキンスープ』では「二つ折りになった紙」とあって、さらに「破れそうになったところを何か所もテープでつなぎ合わせてあった」とあります。

⑩マークが戦場でも戦闘服の胸から何度も取り出して読んでいたことがリストの状態でよくわかります。  リストの状態は戦争の悲惨さを語らずして語っているのです。  事物をして語らしめよ。  これはぜひ知っておいてほしい文章表現です。』

TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT