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奇跡

『①三人の仏教徒が、一緒に修行をすることに決めた。  三人は池のほとりで坐禅を組み、精神を集中し始めた。

②すると、その中の一人が不意に立ち上がった。  「寺の台所の火元を確かめてくる」  その僧はそう言ったかと思うと、池の水面の上をそろりそろりと歩き始めた。  それはまさに奇跡のような光景だった。  僧は対岸の寺まで池の上を歩いて行き、そしてまた池を歩いて戻ってきたのだった。

③次に二人目の僧が言った。  「寺の戸締りが心配だ」  その僧も、先の僧と同じように、池の上を歩き始めた。  信じられない光景が二度、続いた。

④残されたのは三人の中で最も若い僧だった。  彼は内心、大きな動揺に襲われていた。  自分だけが奇跡を起こせないのではないか。  いや、今こそこれまでのヨガの修行の成果を試すいい機会ではないか。  彼は立ち上がり、池へと向かっていった。

⑤彼の足は水に濡れ、膝まで沈み、とうとう転んで全身が水に浸かった。  しかし、彼は諦めなかった。  びしょぬれのまま再び立ち上がり、また転んだ。  何度転んでも、精神を集中し、また立ち上がった。

⑥その様子を岸から見ていた二人の僧はささやきあった。  「どうする?  石のある場所、教えてやった方がいいかな」』

『続・世界の日本人ジョーク集』(早坂隆著 中公新書ラクレ)より

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