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背負い続ける力

『背負い続ける力』(山下泰裕著 新潮新書)を読みました。  柔道の全日本選手権を9連覇した山下先生が書かれた本です。  東海大学相模高校時代の話から抜粋し、番号を付けて紹介します。

『1.ある日のこと、いつものように佐藤宣践先生と夕食後の会話を楽しんでいると、先生が不意に語り始めた。

2.「泰裕、お前ほどではないにしても、これまでも凄い才能を持った選手だと騒がれた若い柔道家は何人もいた。  でもな、順調に成長した選手はほとんどいない。  なぜだかわかるか?」

3.その理由について、佐藤先生は三つの要因を順に挙げた。

①「周囲にチヤホヤされて天狗になってしまうからなんだ。  そうなると練習がおろそかになり、人の話を素直に聞かなくなる。  これでは力はつかない」

②「けがをして潰れていく選手も多い。  いくら素質があってもけがをしては何にもならない。  体力トレーニングはもちろん、日ごろから体調管理は万全にしておきなさい」

③「それから、若さはいつまでも続かないということを肝に銘じておきなさい。  勝負に次はないんだよ。  目の前に来た数少ないチャンスを逃さないよう、しっかりと準備をしておきなさい」』


全日本柔道チームの監督時代の話からも抜粋し、番号を付けて紹介します。

『アトランタオリンピックからシドニーオリンピックまで8年間務めた全日本柔道チームの監督時代、「柔道の創始者」嘉納師範の提唱した精神に則り、「最強の選手」ではなく「最高の選手」を育成しようと心掛けた。

①例えば、金メダルを取った翌日、心身ともに疲労し切っているにもかかわらず、これから試合に臨む選手の付き人を自ら買って出た野村忠宏選手。  結果的にその選手は試合に敗れてしまったが、彼の柔道着を慈しむようにたたんでいた野村選手の姿が頭に焼きついて離れない。

②また、全日本柔道チームの合宿中のまだ誰も起き出していない早朝、瀧本誠選手は、乱雑に脱ぎ散らかされたトイレのスリッパを丁寧に揃えていた。  その場面をたまたま見かけた私があとで礼を言うと、照れくさそうな顔を浮かべてぶっきらぼうに立ち去っていったが、その後ろ姿が忘れられない。

③世紀の大誤審とも言われた信じがたい事態に翻弄された篠原信一選手。  金メダルを逃したことに対してひと言の弁解すら口にすることなく、潔く敗戦を認めた。  この姿に柔道の真髄を体得した者の神々しささえ感じた。』

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