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羽生善治論

かって「神武以来の天才」と呼ばれた加藤一二三(ひふみ)九段が書かれた『羽生善治論・・・「天才」とは何か』(角川書店刊)を読みました。  抜粋し、番号を付けて紹介します。

『1.「第一章 羽生は天才か」より・・・天才の条件①~④

①まったく何もないところから、前例のない、すばらしい着手や作戦を思いつく・・・天才とは、そういうことができる人である。

②早く指すことができて、しかも着手が正確で、なおかつ勝つこと。  天才は、盤を見た瞬間に、パッと手がひらめくのである。  もっとも強力な一手、最強の一手が、局面を見た瞬間に浮かんでくるものなのだ。  (中略)  いいかえれば、状況とか条件が厳しくなればなるほど、指す手は正確さを増してくる。  これも、天才に共通する大きな要素といっていいと思う。

③はじめての形に遭遇しても、判断を誤ることなく、巧みに戦っていける能力。  これも天才には必須なのである。

④②の早指しに強いというのはたしかに天才に欠かせない条件であるが、同時に長考もできなくては天才とはいえない。  長考した結果、直感では浮かんでこなかった絶妙手をみつける、というケースもたしかにあるのである。  (中略)  長考している時、じつは棋士は別に「苦しい」とは感じていない。  むしろ、いい手をみつけようと胸をときめかせているものなのだ。  決して苦吟ではなく、むしろアルファ波が出ているはずである。


2.「第三章 異次元の強さの秘密」より・・・羽生さんの強さの秘密①~⑤

①正統にして王道・・・羽生さんの将棋の特色として、まず指摘しておかなければならないのは、基本的には非常に正統派の将棋であり、王道を行っているということである。  その根拠として、第一に彼は基本を非常に大切にする。  第二に羽生さんは、非常に研究熱心である。

②すぐれた戦略家・・・羽生さんは、研究を通して過去の将棋の長所をすべて身につけたわけだが、だからといって、彼はその将棋をそのまま指しはしない。  改良すべき点があったり、新しい発想が成り立つ可能性がある場合には、柔軟に新手をぶつけてくる。  対戦相手についても過去の棋譜を徹底的に研究したうえで、充分に対策を練ってくる。  その点で羽生さんは非常にすぐれた戦略家である。

③逆転勝ちが多い・・・羽生さんは、われわれプロから見ても、絶対に逆転できないという状況から逆転勝ちしてしまうことが多いのが最大の特徴である。  それらの逆転劇は奇跡と呼ぶほかないので、しばしば〝羽生マジック〟と呼ばれるほどだ。  (中略)  羽生さんはなんとか苦しい場面をしのぎながら、まさしく糸のような細い、細いコースをたどっていくことができるのである。  それが可能である理由はやはり、「勝負勘がずば抜けている」ということだと私は思っている。  つまり、光を見いだすまでのコースの選び方が的確なのだ。

④好戦的・・・羽生さんの将棋は非常に激しい。  チャンスがあれば、すかさず打って出てくる。  成功と失敗の確率が五分五分であるケースならばほかの棋士でも打って出るだろうが、彼は「ちょっとどうかな」「無理ではないかな」と思われる状況であっても、積極的に打って出てくるのである。

⑤作戦のレパートリーが広いので完勝も多い・・・羽生さんには、矢倉があり、腰掛け銀があり、一手損角交換があり、相横歩取りがあり、というふうに、作戦のレパートリーがじつに広い。  非常に柔軟なのである。  しかも、すべて熟達している。  いかなる作戦を用いてもうまく指しこなす。  したがって、どんな戦型であっても臨機応変に渡り合うことができ、しかも勝つことができるのである。  作戦のレパートリーが圧倒的に広いことが完勝が多い理由になっているのではないかと私は思う


3.「第一章 羽生は天才か」より・・・今後の羽生さんへの注文

①棋界の先輩として、今後の羽生さんにあえて注文をつけるとすれば、「ぜひともこれまで以上に質と量を高いレベルで両立させていってほしい」ということになるだろうか。

②質と量の両方が伴って、はじめて大天才といえる。  大天才モーツァルトは35年の生涯で、公表されているだけで626の作品を残したが、そのすべてが名曲であり、多くの人に感動を与えた。

③同様に羽生さんにも、名局によって、多くの人に感動を与えてほしいと望みたいのである。  それができたとき、羽生さんは大天才と呼ぶにふさわしい棋士になる・・・私はそう思う。』

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