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幸田露伴『英雄の気性』

幸田露伴の『頼朝』から『英雄の気性(原文では気象となっており、気性と同意)』について書かれた部分を抜粋し、番号を付けて紹介します。  幸田露伴の文章は口語調で読みにくいので、私が意訳しました。

『①損得利害を考えるのは智者だが、千万人の大将になるような人は智者であるだけではだめである。  自然と千万人を呑むような気性が必要だ。  そのような気性を英雄の気性といい、その気性を備えている人を英雄・大人物・偉人というのである。

②損得利害を考えるのに優れているのは同時代では大江廣元などで、主人持ち・大番頭にはよいが、自分で旦那株になって天下を取るわけにはいかない。  千人・万人・万々人の上に立つものには、自然と千人・万人・万々人を呑んでしまう大きく豊かな気性というものがあって、そして自然と千人・万人・万々人が付き従うものである。  (中略)

③(平治の乱で敗れて逃げる時、頼朝少年ははぐれて一人になった。  それを見つけた落武者狩りの者たちが、子供とみて捕えようとした。  そして頼朝少年の馬の口を取って抱き下そうとした時、頼朝は源氏重代の髭切丸の名刀を抜いてばっさりその男の頭を切り割った。  次の男がまた馬の口に取りつくところを、その腕を切り落としたのである。  その後に大伯父の政家がやってきて、一緒に父の義朝に追いついたのであった。)・・・ネットで見つけた渡部昇一先生の文章より抜粋

④義朝は政家からそのことを聞いて、その場合、大人でも中々そうは振舞えないものをと、大変感歎してほめたそうである。  やはりこれも英気の発露であって、損得利害の点から考えると感心できない危ないことだが、理屈ではなく、自然と気性でそういうことをしたのである。

⑤髭切丸の名刀で切ったのだからよく切れただろうが、13歳の腕力でよくも大胆に大勢出てきた中からリーダーと見られるものを切って捨てたことだ。  こういうことは何も英気の発露だなど言わなくてもいい、むしろ匹夫の勇(ひっぷのゆう・・・思慮浅く、ただ血気にはやってがむしゃらに行動したがるだけの勇気)に近い。

⑥頼朝がこのようなことをしたのは、千々万々の人を容れて余りあり、また千々万々の人を圧して上に立つ気性で、(相手が)「落人とまれっ!」と取り付くやいなや、バサッと斬ってしまったのである。  

⑦とは言っても、そういう後先知らずのことさえすれば頼朝のように天下が取れるなどと誤解されては困る。  (中略)

⑧気性の悪いような人ではもちろん天下は手に入らないが、気性が良いだけで天下が取れるわけでもない。  気性が良い上に、才略もあり、経験もあり、腹心もあり、そして機運にも乗じ、かつ一つは天命にたすけられ、いろいろ様々な原因や機会が錯雑混合して、それでやっと天下の主になりえるのである。

⑨ただここでは頼朝の気性がいかにも万人の上にも立ちそうな良い気性で、そして相手を斬ったのはその英気がたまたま発露したのだ、と言いたいのである。』

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